【連載完結】タランティーノが教えてくれる「映画の観方」。21世紀のTOP20リストから読み解く、シネフィルのための最終講義
クエンティン・タランティーノ。
彼ほど楽しそうに、そして彼ほど熱く、映画について語る人間を私は他に知りません。
彼がポッドキャスト『The Bret Easton Ellis Podcast』で語った「21世紀の映画ベスト20」。
そこには、深作欣二の『バトル・ロワイアル』があり、ピクサーの『トイ・ストーリー3』があり、そしておバカ映画の金字塔『ジャッカス・ザ・ムービー』が並んでいました。
一見すると支離滅裂で、カオスなリスト。
しかし、その混沌の中にこそ、ビデオショップの店員から世界の巨匠へと駆け上がった男の「揺るぎない映画哲学」が隠されています。
本連載は、タランティーノの選出作品と、彼自身の監督作を照らし合わせ、その創作の源泉を探ってきました。
記念すべき連載第10回(最終回)となる今回は、これまでの全分析を統合した総決算です。
テーマは、「タランティーノが教えてくれる、映画の観方」。
「高尚な芸術映画」も「B級ホラー」も区別せず、ただ心の底から震えるような体験だけを信じる。
そんな彼の姿勢は、情報過多な現代で何を観ればいいか迷っている私たちに、シンプルで力強い指針を与えてくれます。
さあ、最後の授業を始めましょう。
これは単なる「おすすめ映画リスト」の解説ではありません。
あなたがこれから一生、映画をもっと自由に、もっと深く愛するための「教科書」です。
本記事のポイント(この記事でわかること)
- 全貌解明「タランティーノ・マトリックス」:
これまでの連載で分析した「選出作」と「監督作」の関係を、一枚の対応表(相関図)に完全網羅。 - 「高尚」と「低俗」の破壊:
なぜ彼はアカデミー賞映画と、人が汚物にまみれる映画を同列に愛せるのか? そのフラットな視点を学ぶ。 - シネフィルとしての最終結論:
膨大な映画知識を持つ彼が、最終的に辿り着いた「面白い映画」の条件とは。
これまでの連載(バックナンバー)
本連載はどこから読んでも楽しめますが、気になった作品があればぜひ振り返ってみてください。
- 第1回:タランティーノTOP20映画とは何か
- 第2回:『RESERVOIR DOGS』― 疑心暗鬼と会話の映画学
- 第3回:『PULP FICTION』― ストーリーを壊す快感
- 第4回:『JACKIE BROWN』― 大人のためのタランティーノ
- 第5回:『KILL BILL Vol.1&2』― ジャンル映画の大融合
- 第6回:『INGLOURIOUS BASTERDS』― 歴史を書き換える映画的暴力
- 第7回:『DJANGO UNCHAINED』― 復讐映画のエンタメ化
- 第8回:『THE HATEFUL EIGHT』― 密室と人間不信
- 第9回:『ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD』― 映画とノスタルジー
- 第10回(今回): タランティーノが教えてくれる「映画の観方」
※本ページはプロモーションが含まれています
はじめに|ビデオショップの店員は、まだそこにいる——リストが語る「偏愛」の正体
クエンティン・タランティーノという男の原点は、マンハッタン・ビーチにあったレンタルビデオ店「ビデオ・アーカイブス」にあります。
かつて彼は、いち店員としてカウンターに立ち、客とB級映画について激論を交わし、棚の端から端までの作品を浴びるように観ていました。
カンヌでパルム・ドールを獲り、オスカーを手にしてもなお、このリストを見る限り、彼の魂はあのカウンターの中にあります。
ここに並んでいるのは、評論家が選ぶような「映画史に残る傑作選」ではありません。
一人の映画オタクが、自分の感性だけを頼りに選び抜いた、混じりっ気なしの「偏愛」のリストなのです。
なぜ『アバター』ではなく『ジャッカス』なのか?——権威を笑い飛ばす批評眼
2000年代を代表する映画といえば、技術革新を起こし、世界興行収入記録を塗り替えた『アバター』を挙げるのが一般的でしょう。
しかし、タランティーノが選んだのは、大人たちがふざけて痛い目を見るだけのドキュメンタリー(?)映画『ジャッカス・ザ・ムービー』でした。
ここに彼の批評眼の鋭さと、ある種のパンク精神があります。
彼は「世間がどう評価するか」「興行収入がいくらか」といった権威を一切気にしません。
重要なのは、「俺が観て、心が震えたかどうか」。ただそれだけです。
最新技術の3D映像よりも、生身の人間がバカをやって大笑いする瞬間のほうが、彼にとっては映画的であり、リスペクトに値するのです。
21世紀映画への回答——「昔は良かった」で終わらない、現役監督のハングリー精神
ベテランの監督になると、「今の映画はCGばかりでつまらない」と嘆く人も少なくありません。
タランティーノもまた、フィルム撮影にこだわり、CGを嫌う「懐古主義者」の一人と思われがちです。
しかし、このリストはそのイメージを覆します。
彼は21世紀の新しい映画たち——『ソーシャル・ネットワーク』の脚本術や、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のアクション——を、嫉妬するほどの熱量で絶賛しています。
彼は過去に閉じこもっていません。
「今の時代の連中は、どんな面白いことをやっているんだ?」
そう目を光らせる彼は、懐かしむ老人ではなく、常にライバルを探し続ける「現役の映画監督」なのです。
相関図|タランティーノ・ユニバースの全貌——21世紀の傑作と自作の対応表
本連載で全9回にわたり解き明かしてきた、タランティーノの「脳内」を一枚の地図にまとめました。
彼が21世紀に愛した映画(Input)は、どのように彼自身の作品(Output)へと変換され、昇華されたのか。
一見バラバラに見える作品群を繋ぐ、「血の通った共通点」をご覧ください。
| 監督作品(Output) | 影響・共鳴した選出作(Input) | 共通するDNA(テーマ) | 詳細 |
| レザボア・ドッグス (1992) | ・ゾディアック ・キャビン・フィーバー ・デビルズ・リジェクト | 【初期衝動と緊張】 会話だけで高める緊張感、暴力をあえて見せない恐怖、クズしかいない世界観。 | 第2回へ |
| パルプ・フィクション (1994) | ・マネーボール ・ロスト・イン・トランスレーション ・ジャッカス・ザ・ムービー | 【会話と構造破壊】 「無駄話」こそがエンタメの核。日常のズレや、映画のルールを無視する快楽。 | 第3回へ |
| ジャッキー・ブラウン (1997) | ・ゼア・ウィル・ビー・ブラッド ・ミッドナイト・イン・パリ ・マネーボール | 【成熟と抑制】 大人向けの抑制された演出。派手さはなくとも、完璧に計算された完成度と哀愁。 | 第4回へ |
| キル・ビル Vol.1 & 2 (2003-2004) | ・バトル・ロワイアル ・チョコレート・ファイター ・マッドマックス怒りのデス・ロード ・ショーン・オブ・ザ・デッド | 【アクション至上主義】 つべこべ言わずに戦え。殺し合いの様式美と、ジャンル映画への溺愛。 | 第5回へ |
| イングロリアス・バスターズ (2009) | ・ブラックホーク・ダウン ・ダンケルク ・パッション | 【歴史と緊張の操作】 映画的な「嘘」で歴史を再解釈する暴力。時間と空間を自在に操るサスペンス。 | 第6回へ |
| ジャンゴ繋がれざる者 (2012) | ・アンストッパブル ・オオカミは嘘をつく ・デビルズ・リジェクト | 【快感と正義の揺らぎ】 シンプルな活劇構造。悪を絶対悪として描き、正義が暴走する瞬間のカタルシス。 | 第7回へ |
| ヘイトフル・エイト (2015) | ・ゾディアック ・ゼア・ウィル・ビー・ブラッド ・オオカミは嘘をつく | 【疑心暗鬼と人間の醜さ】 密室で剥き出しになる人間の本性。正義や倫理が崩壊していく様を楽しむ悪趣味さ。 | 第8回へ |
| ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド (2019) | ・ミッドナイト・イン・パリ ・ウエスト・サイド・ストーリー ・トイ・ストーリー3 | 【愛とノスタルジー】 過去への美しい逃避行。映画史へのリスペクトと、時代遅れの者たちの優しい去り際。 | 第9回へ |
この表の見方
こうして並べてみると、タランティーノが決して「昔の映画しか見ない懐古主義者」ではないことがよく分かります。
彼は、『トイ・ストーリー3』のようなアニメーションから、『ジャッカス』のようなおバカ映画まで、あらゆるジャンルから「自分の映画に必要な成分」を貪欲に吸収し続けています。
では、具体的に彼がこれらの映画から何を学び、何を私たちに伝えようとしているのか。
次章から、4つの講義に分けてその「映画哲学」を深掘りしていきましょう。
講義①|「高尚」と「低俗」の壁を壊せ——『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と『ジャッカス』を同列に愛す
映画ファンなら誰もが一度は陥る罠があります。
それは、「アカデミー賞を獲るような映画こそが優れていて、おバカ映画は価値が低い」という権威主義的なバイアスです。
しかし、タランティーノのTOP20リストは、その壁をダイナミックに破壊します。
彼は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の重厚な人間ドラマ『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を「完璧な映画」と称賛する一方で、いい大人がショッピングカートで激突するだけの『ジャッカス・ザ・ムービー』も同じ熱量で愛しているのです。
ここには、私たちが学ぶべき「真のシネフィル(映画狂)」としての姿勢があります。
面白ければそれが正義——ジャンルや予算で映画を差別しない「フラットな視点」
なぜ彼は、この両極端な作品を同列に並べることができるのでしょうか?
それは彼にとって、「映画の目的が達成されているか」という点において、両者は等価だからです。
- 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の目的: 圧倒的な演出と演技で、観客を畏怖させること。
- 『ジャッカス』の目的: くだらないスタントで、観客を爆笑させること。
どちらも、観客の感情を揺さぶるという点では成功しています。
タランティーノは、「高尚なテーマ」があるかどうかで映画を差別しません。
予算が数億ドルだろうが、家庭用ビデオカメラで撮った映像だろうが、「面白ければ、それは正義」なのです。
「これはB級だから」「これは子供向けだから」と食わず嫌いをするのは、あまりにももったいない。
彼のリストは、そう私たちに語りかけています。
B級映画の魂——『キャビン・フィーバー』に見る、初期衝動へのリスペクト
リストの中でも異彩を放つのが、イーライ・ロス監督のホラー『キャビン・フィーバー』です。
批評家からは「趣味が悪い」「粗削り」と酷評されがちなこの手のジャンル映画を、なぜタランティーノは選んだのでしょうか。
それは、そこに作り手の「初期衝動」が詰まっているからです。
- 技術的には未熟かもしれない。
- 脚本には穴があるかもしれない。
• でも、「とにかく面白いものを撮りたい!」という熱量だけは誰にも負けていない。
タランティーノ自身、『レザボア・ドッグス』という低予算映画からキャリアをスタートさせました。
だからこそ彼は、綺麗にまとまっただけの優等生的な映画よりも、泥臭くても情熱がほとばしる「B級映画の魂」を愛するのです。
Lesson 1
「ギルティ・プレジャー(後ろめたい楽しみ)」なんて言葉は捨ててしまえ。
人が何と言おうと、あなたが笑い、興奮したのなら、それはあなたにとっての「名作」だ。
講義②|理屈よりも「体験」を信じろ——『マッドマックス』『アンストッパブル』の純粋な快感
映画には、「考察」が必要な作品と、ジェットコースターのようにただ「乗っていればいい」作品があります。
タランティーノのリストには、後者が驚くほど多く含まれています。
セリフは最小限、ストーリーは一直線。
トニー・スコット監督の『アンストッパブル』(暴走列車を止めるだけ)や、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(行って帰ってくるだけ)がその筆頭です。
タランティーノは教えてくれます。
「高尚なメッセージなんてなくていい。映画とは本来、動く絵(Motion Picture)がもたらす生理的な快感であるべきだ」と。
アクションは言語を超える——『バトル・ロワイアル』が教えてくれた映像の暴力性
タランティーノが『キル・ビル』を作るきっかけとなり、彼が「1992年以降で最高の映画」と崇拝するのが、深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』です。
中学生が殺し合うという衝撃的な設定ばかりが注目されがちですが、彼が評価しているのはその「映像のエネルギー」です。
言葉が通じなくても、画面から伝わる痛み、疾走感、そして悲哀。
アクション映画において、優れたアクションは言語の壁を超えます。
タランティーノは、緻密な脚本家でありながら、「言葉(セリフ)ですべてを説明しようとする映画」を嫌います。
殴り合う拳、飛び散る血、その「画」だけで感情を語る深作監督の演出に、彼は映画本来の野性的な力を再発見したのです。
映画館というライブハウス——頭で考えるな、全身で「緊張と緩和」を浴びろ
タランティーノが選ぶアクション映画(『ブラックホーク・ダウン』や『ダンケルク』など)には、共通点があります。
それは、観客を「緊張状態(サスペンス)」に叩き込み、そこから一気に解放する手腕が優れていることです。
映画館は、静かに物語を追うだけの図書館ではありません。
大音量と大画面に身を任せ、心拍数を上げ、手に汗を握る「ライブハウス」なのです。
- 『アンストッパブル』の暴走列車: 物理的な重さとスピード感に圧倒される。
- 『マッドマックス』の爆音: エンジン音とドラムの音に脳を揺らされる。
これらの映画を観る時、小難しい理屈や整合性はノイズでしかありません。
「頭(Brain)を切れ。内臓(Gut)で感じろ」
それが、この講義における最大の教えです。
Lesson 2
映画館では、一番「バカ」になった者が勝つ。
ポップコーンを片手に、スクリーンの爆発やスピードに身を委ねよう。
ストーリーの整合性よりも、今この瞬間の「興奮」を信じるのだ。
講義③|会話は「アクション」である——『マネーボール』『ソーシャル・ネットワーク』の脚本術
前の講義で「アクション(動く絵)」の重要性を説きましたが、タランティーノにとって「会話」もまた、立派なアクションです。
彼は脚本家アーロン・ソーキンの大ファンであり、『ソーシャル・ネットワーク』を「2010年代最高の映画」と断言し、『マネーボール』をTOP20リストに入れました。
これらの映画では、銃弾は一発も飛びません。しかし、会議室や球団事務所で交わされる言葉の応酬が、まるでマシンガンの銃撃戦のようにスリリングなのです。
言葉の銃撃戦——アーロン・ソーキンとタランティーノに共通する「リズム」の発明
『マネーボール』は、地味な野球の裏方たちの話です。普通なら退屈になりがちなこの題材を、タランティーノが絶賛するのはなぜか。
それは、登場人物たちが「頭の回転の速さ」を競い合うように喋り続けるからです。
- 相手の言葉を遮る。
- 質問に質問で返す。
- 皮肉を被せる。
このテンポの良さは、タランティーノ映画の「無駄話」に通じます。
彼らにとって、セリフは単なる情報伝達の手段ではありません。相手を打ち負かし、自分の優位性を証明するための「武器」なのです。
タランティーノは、この「言葉のリズム(音楽性)」に敏感です。
良い脚本とは、読んでいて心地よいビートを刻んでいるもの。
私たちは『マネーボール』を観て、野球のルールは分からなくても、「言葉の格闘技」としての興奮を味わうことができるのです。
日常のズレを聴く——『ロスト・イン・トランスレーション』に見る、静かなるドラマ
一方で、タランティーノはソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』も高く評価しています。
こちらは打って変わって、言葉少ない静かな映画です。
ここで彼が評価しているのは、会話における「リアルなズレ」や「気まずさ」です。
『パルプ・フィクション』で、殺し屋二人がハンバーガーの話や足のマッサージの話を延々とするように、タランティーノは「本筋とは関係ない会話」にこそ人間性が宿ると考えています。
『ロスト・イン・トランスレーション』で描かれる、異国のホテルでの浮遊感、噛み合わない会話、沈黙の共有。
劇的な事件は起きなくても、その「空気感(アトモスフィア)」だけで映画は成立する。
「ドラマチックな展開を作らなきゃ」と焦る現代の映画作りに対し、彼は「日常のささいな会話の中にこそ、ドラマはあるんだよ」と教えてくれているようです。
Lesson 3
脚本は「耳」で楽しめ。
登場人物たちが何を喋っているか(内容)よりも、どう喋っているか(リズム・間)に注目しよう。
優れた会話劇は、目を閉じても面白いラジオドラマのようなものだ。
講義④|映画への愛を隠すな——『トイ・ストーリー3』『ミッドナイト・イン・パリ』の涙
タランティーノ映画といえば「暴力」や「スラング」が代名詞ですが、彼の根底にある本当の原動力は「映画への愛(ロマンス)」です。
彼は、ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』や、ピクサーの『トイ・ストーリー3』をリストに入れ、手放しで絶賛しています。
この2作に共通するのは、「過ぎ去ってしまう時間への愛惜」と「美しい別れ」です。
冷笑的な批評家たちは、彼の作品を「過去の映画のパッチワーク(ツギハギ)」と揶揄することもあります。
しかし、彼はそんな声を意に介しません。好きなものを好きと叫び、過去の名作たちに敬意を払い続ける。その純粋な愛こそが、彼の映画を特別なものにしているのです。
ノスタルジーは恥じゃない——過去の傑作を愛することで、未来の創作につなげる
『ミッドナイト・イン・パリ』は、主人公が憧れの1920年代パリへタイムスリップし、ヘミングウェイやピカソと出会う物語です。
これはまさに、タランティーノ自身が映画作りでやっていることです。
彼は1960〜70年代の映画(マカロニ・ウエスタンやカンフー映画)にタイムスリップし、そこから新しい物語を創造しています。
一般的に「懐古主義(ノスタルジー)」は、後ろ向きな姿勢と捉えられがちです。
しかし、タランティーノはこの映画を通して、その姿勢を全面的に肯定されたと感じたのではないでしょうか。
「過去を愛することは、現実逃避ではない。今を生きるためのエネルギー源だ」
過去の傑作を知り、愛し、そこから学ぶこと。それが未来の傑作を生むための最短ルートであることを、彼は自らのキャリアで証明し続けています。
完璧なラストシーン——映画ファンとして、作り手として、彼が追い求めた「理想の終わり」
タランティーノが『トイ・ストーリー3』を2010年のベスト1に選んだ理由は明確です。
それは、アンディがおもちゃたちと別れるラストシーンが、「物語の完結としてあまりにも完璧だったから」です。
彼は常々、「映画において最も重要なのはラストシーンだ」と語っています。
どんなに途中が良くても、エンディングで失敗すればその映画は台無しになる。逆に、最高のエンディングがあれば、それは永遠のクラシックになる。
- アンディがウッディを手放す切なさ。
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でゲートが開く優しさ。
彼が追い求めているのは、観客の心に一生残る「美しいサヨナラ」です。
「おもちゃ(映画)」はいつか手放さなければならない日が来るかもしれない。
それでも、その別れ方が美しければ、その記憶は一生の宝物になる——。
『トイ・ストーリー3』への賞賛には、一人の映画作家としての「理想の終わり方」への執着と憧れが詰まっているのです。
Lesson 4
好きなものに嘘をつくな。
「いい歳をしてアニメで泣くなんて」と自分を卑下する必要はない。
あなたの心を震わせたその涙こそが、あなた自身の感性であり、真実なのだから。
まとめ|自分の「好き」を信じること
全10回にわたり、クエンティン・タランティーノが選んだ「21世紀の映画ベスト20」を読み解いてきました。
改めてこのリストを眺めると、ある一つの真実に気づかされます。
それは、「映画の価値を決めるのは、批評家でも興行収入でもなく、あなた自身である」ということです。
世間の評価が低くても、友達がつまらないと言っても、タランティーノは『キャビン・フィーバー』を愛しました。
逆に、誰もが絶賛する映画でも、自分の心に響かなければリストには入れません。
彼は、映画監督である以前に、世界一正直な「映画ファン」であり続けました。
この連載を通して私たちが彼から学んだ最大の教訓は、演出論や脚本術ではなく、「自分の『好き』という感情を、誰よりも信じ抜く勇気」だったのかもしれません。
タランティーノからの最後のメッセージ——「君のTOP10」を作るのは、君自身だ
現代は、映画サイトのスコアや、AIのおすすめ機能が「観るべき映画」を教えてくれる時代です。
失敗したくないあまり、私たちはつい「正解」を探してしまいます。
しかし、タランティーノはこう言っている気がしてなりません。
「そんな数字なんてクソ食らえだ。君の心が震えた映画はどれなんだ?」と。
- 泣いた映画。
- 腹を抱えて笑った映画。
- 救われた映画。
それがB級ホラーであれ、子供向けアニメであれ、胸を張って愛してください。
タランティーノがビデオショップの棚から自分だけの宝物を見つけ出し、それを武器に世界を変えたように。
あなたもまた、あなただけの「偏愛」を見つける旅に出てください。
さあ、次はあなたの番です。
この連載を読み終えたら、スマホを置いて、映画を観ましょう。
そしていつか、あなただけの「最高のTOP10」を作ってください。
映画の神様は、いつだってスクリーンの中であなたを待っています。
連載終了のご挨拶
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
タランティーノの脳内を旅するこの連載が、あなたの映画ライフにとって少しでも「スパイス」になれば幸いです。
もし、この連載で紹介した映画の中で、まだ観ていないものがあれば、ぜひチェックしてみてください。
そこにはきっと、新しい世界への扉が隠されているはずです。
それでは、またどこかの映画館(あるいはブログ記事)でお会いしましょう。
See you at the movies!

