タランティーノ厳選21世紀の映画TOP20からの『パルプ・フィクション』再考

コラム

【連載】タランティーノが『パルプ・フィクション』を自己分析するなら。21世紀のTOP20から解き明かす「時間軸の魔術と破壊の快楽」

1994年、カンヌ国際映画祭。

ある一本の映画がパルム・ドールをさらいました。

物語の時系列はバラバラ、ギャングがハンバーガーの話を延々とし、トップスターがトイレで……。

クエンティン・タランティーノの第2作にして最高傑作『パルプ・フィクション(Pulp Fiction)』

この映画が登場して以来、世界中の映画作家がこぞって「時間軸のシャッフル」や「クールな無駄話」を真似し始めました。

しかし、タランティーノ本人は、この革新的な作品の「何」を誇りに思っているのでしょうか?

本連載は、タランティーノがポッドキャスト『The Bret Easton Ellis Podcast』で語った「21世紀の映画ベスト20」をリスト化し、そこから彼の創作の秘密を逆引きで紐解く試みです。

連載第3回となる今回のテーマは、「映画のルールの破壊」

比較対象として選ばれたのは、一見すると『パルプ・フィクション』とは無縁に思える以下の3作品です。

  • 『マネーボール』: 統計学と野球の会話劇
  • 『ロスト・イン・トランスレーション』: 東京を彷徨う静かなドラマ
  • 『ジャッカス・ザ・ムービー』: 痛みを笑いに変えるおバカ・スタント

特に『ジャッカス』の選出には驚かれるかもしれません。しかし、これら3本を並べると、タランティーノが『パルプ・フィクション』で本当にやりたかった「語りの魔術」と「予定調和の破壊」が鮮明に見えてきます。

なぜ彼は時計を壊したのか? なぜ物語を止めてまで雑談を描くのか?

その答え合わせを始めましょう。

本記事のポイント(この記事でわかること)

  • 『マネーボール』との共通点:
    アクション映画なのに「会話」が主役? アーロン・ソーキンとタランティーノに通じる脚本術。
  • 『ロスト・イン・トランスレーション』との共通点:
    物語を進めない「豊かな停滞」。日常のズレが生むドラマとは。
  • 『ジャッカス・ザ・ムービー』との共通点:
    高尚な映画文法なんてクソ食らえ。「ルール無視」のパンク精神について。

これまでの連載

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はじめに|映画の「時計」を壊した1994年の革命

「映画は、始まりがあり、中間があり、終わりがある。ただし、その順番通りである必要はない」

ヌーヴェルヴァーグの巨匠ジャン=リュック・ゴダールの言葉ですが、これをハリウッドのど真ん中で、最高のエンターテインメントとして証明して見せたのが『パルプ・フィクション』(1994)でした。

ファミレスでの強盗、ボクサーの八百長、ギャングのボスと妻のデート、死体処理……。

本来なら一本の線で繋がるはずのこれらのエピソードを、タランティーノはバラバラに解体し、シャッフルして提示しました。

公開から30年経った今でも、本作が「90年代を代表する一本」として君臨しているのはなぜか? それは、単に構成が斬新だったからだけではありません。もっと根本的な「映画の楽しみ方のルール変更」を行ったからです。

時系列シャッフルだけではない、『パルプ・フィクション』の革新性

多くのフォロワー作品が『パルプ・フィクション』の真似をして失敗しました。その理由は、彼らが「時系列をいじれば面白くなる」と勘違いしたからです。

タランティーノがこの作品で成し遂げた本当の革新性は、以下の2点にあります。

  1. 「無駄話」を主役に引き上げた
    本来ならカットされるはずの「ハンバーガーの名前」や「マッサージの是非」といった雑談を、アクションシーンと同等の重要度で描いたこと。
  2. ジャンルの「闇鍋」化
    ノワール(犯罪映画)であり、コメディであり、青春映画でもある。高尚なアートと、低俗なパルプ雑誌の感覚をミックスしたこと。

つまり、彼が壊したのは時間軸だけではなく、「映画はこうあるべき」という固定観念そのものだったのです。

21世紀の「会話・空気・破壊」から、その構造を逆引きする

では、そんな怪物的な映画を、どうやって解剖すればいいのか?

ここで役に立つのが、タランティーノ自身が選んだ「21世紀のTOP20映画」です。

今回ピックアップした3作品は、『パルプ・フィクション』を構成する「3つの重要成分」を見事に抽出しています。

  • 『マネーボール』
    アクション映画のような興奮を生む「会話のテンポ」
  • 『ロスト・イン・トランスレーション』
    物語の進行を止めてでも描きたい「空気と日常のズレ」
  • 『ジャッカス・ザ・ムービー』
    映画の文法なんて知ったことか!という「破壊衝動」

これら現代の傑作という「レンズ」を通すことで、タランティーノが1994年に何を考え、どのような手つきで映画史を書き換えたのかが、より鮮明に見えてくるはずです。

まずは、タランティーノが「脚本のお手本」と崇める、あの野球映画との比較から始めましょう。

『マネーボール』との共鳴|アクションとしての「会話劇」

タランティーノが選ぶ21世紀の映画リストに、ブラッド・ピット主演の野球データ映画『マネーボール』(2011)が入っているのを見て、首を傾げた人もいるかもしれません。

しかし、脚本家のクレジットを見れば納得がいきます。書いたのは、あのアーロン・ソーキン(『ソーシャル・ネットワーク』他)です。

タランティーノはかねてよりソーキンの脚本を高く評価しています。なぜなら、彼らは二人とも「会話こそが最高のアクションである」と信じている、ハリウッドでも数少ない同志だからです。

銃撃戦よりもスリリングな「会議室」——ソーキン節とタランティーノ節

『マネーボール』に、ホームラン性の派手な試合シーンはほとんどありません。

その代わりにあるのは、スカウトたちが会議室で怒鳴り合うシーンや、GM(ブラッド・ピット)が電話で他球団と選手トレードの交渉をするシーンです。

タランティーノは、この「電話越しの交渉」に、自身が描く「銃を突きつけ合うシーン」と同じ興奮を感じ取っています。

  • ソーキン節: 専門用語と数字をマシンガンのように連射し、相手を論破するスピード感。
  • タランティーノ節: 無駄話をダラダラと続けながら、徐々に相手を自分のペース(あるいは罠)に引き込むグルーヴ感。

スタイルこそ違いますが、どちらも「言葉」を武器として戦うアクション映画なのです。タランティーノは『マネーボール』の中に、自身が『パルプ・フィクション』で目指した「脚本の力だけで観客をねじ伏せる快感」を見たのでしょう。

「ロイヤル・チーズ」の雑談が、なぜ映画の歴史を変えたのか

『パルプ・フィクション』の冒頭、殺し屋のヴィンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)が車内で交わす会話は、映画史を変えました。

「フランスでクォーターパウンダーを何て呼ぶか知ってるか?」

「ロイヤル・チーズだ」

この会話は、物語の進行には1ミリも役に立ちません。従来の映画作法なら、真っ先にカットされる対象です。

しかし、タランティーノはこの「無駄話」をあえて冒頭に置きました。

それにより、観客は彼らを「単なる怖い殺し屋(記号)」ではなく、「くだらないことで笑い合う、実在感のある人間」として認識します。

このリアリティがあるからこそ、その後の暴力シーンがより際立つのです。『マネーボール』でスカウトたちが選手の容姿や彼女について下世話な話をするのも、全く同じ効果(リアリティの構築)を生んでいます。

データと無駄話——「言葉のリズム」だけで観客を支配する技術

『マネーボール』は「野球のデータ」、『パルプ・フィクション』は「ポップカルチャーの知識」。

扱うネタは違いますが、共通しているのは「言葉のリズム(Beat)」です。

タランティーノの映画を観ていると、意味がわからなくても、役者が喋っているのを聞いているだけで心地よくなる瞬間があります。それは彼が脚本を「音楽」のように書いているからです。

  • 誰がどこで相槌を打つか
  • どこで沈黙するか
  • どこで声を荒げるか

これらが完璧に計算されているため、会話シーンそのものが音楽ライブのような高揚感を生みます。

タランティーノが『マネーボール』を絶賛するのは、そこにある膨大なセリフの応酬が、完璧なリズムで刻まれた「聴く映画」の傑作だからに他なりません。

Check!|”言葉の銃撃戦”を目撃せよ

脚本家が本気を出したとき、会議室の電話は銃よりもスリリングになり、ハンバーガーの話は哲学よりも深くなります。

タランティーノとアーロン・ソーキン。現代最高峰の「語り部」たちが仕掛けた、脳みそを刺激する会話劇を聴き比べてみてください。

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『ロスト・イン・トランスレーション』との共鳴|日常のズレと「空気感」

2003年、ソフィア・コッポラ監督が撮った『ロスト・イン・トランスレーション』

東京のホテルで不眠症に悩む中年俳優(ビル・マーレイ)と、若妻(スカーレット・ヨハンソン)の淡い交流を描いた静かな映画です。

銃も出なければ、血も流れない。しかしタランティーノは、この作品を「21世紀のベスト」の一つとして深く愛しています。

かつて二人が恋人関係にあったというゴシップはさておき、作家として彼がこの映画に共鳴したのは、そこに完璧な「空気感(Vibe)」が映っていたからです。

ソフィア・コッポラが描く「退屈な時間」を、なぜタランティーノは愛したか

タランティーノは自身の好みを「ハングアウト・ムービー(登場人物と一緒にダラダラ過ごす映画)」と表現することがあります。

彼にとって、物語がどんどん進むことだけが正義ではありません。むしろ、「何も起きていない豊かな時間」こそを愛でたいのです。

『ロスト・イン・トランスレーション』は、まさにその極致です。

ホテルのバーでグラスを傾ける時間、言葉の通じない東京の街をタクシーで流す時間。

そこにあるのは「退屈」と紙一重の、しかし心地よい「停滞」です。

タランティーノは、ソフィア・コッポラが捉えた「異国での孤独」や「言葉にできない寂しさ」という空気が、どんな爆破シーンよりも映画的であることを誰よりも理解していました。

ヴィンセントとミアのドライブ——物語を進めない「豊かな停滞」

この「空気感の重視」は、『パルプ・フィクション』の演出そのものです。

例えば、ヴィンセント(ジョン・トラボルタ)がボスの妻ミア(ユマ・サーマン)を食事に連れて行くシークエンス。

車の中で流れる音楽、レストランでの沈黙、そして有名なツイストダンス。

これらは、ストーリー上は「食事をした」という一行で済む出来事です。

しかし、タランティーノはこの「本筋とは関係ないデートの空気」を延々と描き続けます。

二人の間に漂う微妙な緊張感や、色気、気まずさ。

『ロスト・イン・トランスレーション』の二人が東京の夜に感じた浮遊感と、『パルプ・フィクション』の二人がLAの夜に感じた浮遊感。

ジャンルは違えど、そこには「ただ、その場の空気に身を委ねる」という贅沢な時間が流れています。

ドラマチックな事件の裏にある、愛おしい「日常のズレ」

『ロスト・イン・トランスレーション』の面白さは、文化の違いや時差ボケによる「日常のズレ」をユーモラスに描いている点です。

タランティーノもまた、この「ズレ」を愛する作家です。

『パルプ・フィクション』でも、人を殺しに行く直前に「足のマッサージの意味」について大激論したり、強盗の最中にトイレに行きたくなったりします。

かっこいい映画の文脈に、あえて「生活感のあるノイズ」を混ぜ込む。

そうすることで、映画という作り物の世界に、不思議なリアリティと愛おしさが生まれます。

タランティーノがソフィア・コッポラに共鳴したのは、彼女もまた、ドラマチックな物語よりも「人間のちぐはぐな日常」を信じていたからに他なりません。

Check!|物語を忘れて、夜の空気に浸る

忙しい日常を忘れて、ただ映画の中の夜に浸りたい。

そんな時は、東京のネオンが美しい『ロスト・イン・トランスレーション』と、LAの夜景が妖しく光る『パルプ・フィクション』を観比べてみてください。

どちらも「夜のドライブ」や「バーの静寂」が最高に美しい映画です。

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『ジャッカス・ザ・ムービー』との共鳴|構造破壊と「ルールの無視」

タランティーノのTOP20リストを見て、最も多くの人が目を疑ったのが『ジャッカス・ザ・ムービー』(2002)の選出でしょう。

MTV発の、プロのスタントマンたちが全裸で走り回ったり、汚物にまみれたりするだけの「おバカ映画」。ストーリーもなければ、感動もありません。

しかし、タランティーノはこの映画を「映画作りにおけるパンク・ロック」と評し、最大級の賛辞を贈っています。

なぜか? それは『ジャッカス』こそが、彼が『パルプ・フィクション』で試みた「既存の映画ルールの破壊」を、最も過激な形で継承した作品だからです。

なぜ天才監督は、おバカなスタント映画に熱狂したのか?

タランティーノは常々、「映画は観客の感情を揺さぶってナンボだ」と語っています。

恐怖、笑い、不快感。どんな感情であれ、観客を安全地帯から引きずり出し、スクリーンに釘付けにできれば、それは「勝ち」なのです。

その意味で『ジャッカス』は最強です。

「レンタカーで破壊ダービーをする」「ワニのいるプールに飛び込む」。

そこにあるのは、脚本も演出も超えた「生のリアクション」と「身体的な衝撃」だけ。

タランティーノは、緻密に計算されたハリウッド大作が失ってしまった「初期衝動(プリミティブな興奮)」の塊を、ジョニー・ノックスヴィル率いる愚か者たちの中に見出したのです。

心臓への注射針——「痛み」と「笑い」が同居するショック療法

『パルプ・フィクション』には、映画史に残るショッキングなシーンがあります。

オーバードーズで心停止したミア(ユマ・サーマン)の心臓に、極太の注射針を突き刺して蘇生させるシーンです。

観客は「うわっ!」と悲鳴を上げ、直後にそのあまりの荒唐無稽さに笑ってしまいます。

この「痛々しいのに笑える(Grotesque yet Funny)」という感覚こそ、タランティーノと『ジャッカス』を結ぶ強力な共通点です。

『ジャッカス』が紙で指の間を切るシーンを見て、観客は悲鳴を上げながら爆笑します。

タランティーノにとって、この「ショック療法」のような生理的反応を引き出せる映画こそが、真にパワーのある映画なのです。

高尚な映画文法を嘲笑う、パンク・ロックとしての映画制作

1994年、『パルプ・フィクション』は「時系列通りに語る」「主人公は死なない」といった映画のルールを嘲笑うかのように破壊し、パルム・ドールを獲りました。

それは、権威に対する中指(ファック・ユー)でした。

2002年、『ジャッカス』は「高画質な映像」「意味のある物語」「教訓」といった映画の常識をすべてゴミ箱に捨て、家庭用ビデオカメラで撮影した馬鹿騒ぎだけで全米1位を獲りました。

タランティーノがこの作品を愛するのは、そこに自分と同じ「破壊者の魂」を感じるからでしょう。

「映画なんて、もっと自由で、もっとデタラメでいいんだよ」。

『ジャッカス』のバカバカしさは、タランティーノが『パルプ・フィクション』で世界に叫んだメッセージそのものなのです。

Note|配信状況について

残念ながら『ジャッカス・ザ・ムービー』は現在、U-NEXTなどの主要定額見放題サービスでは配信されていません(2026年1月時点)。

しかし、もしレンタルビデオ店やデジタル購入で見かけることがあれば、食わず嫌いせずに手に取ってみてください。「タランティーノが認めた芸術」というフィルターを通して観ると、あのバカ騒ぎが、不思議と「映画の原点」のように見えてくる……かもしれません。

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分析|タランティーノが発明した「語り(ナラティブ)」の自由

『パルプ・フィクション』が公開された1994年、映画界に激震が走りました。

それまで「映画」とは、A地点からB地点へ向かう旅のようなものでした。しかしタランティーノは、その地図をビリビリに破り、テープでランダムに貼り直してしまったのです。

なぜ彼はそんなことをしたのか?

今回紹介した21世紀の3作品と照らし合わせることで、その「必然性」が見えてきます。彼が発明したのは、単なる編集のトリックではなく、観客を物語の呪縛から解放する「自由」だったのです。

時間を入れ替える意味——「結末」よりも「過程」を見せる発明

多くの人が誤解していますが、タランティーノが時系列をシャッフルしたのは「難解にするため」ではありません。逆に、「結末を気にせず、目の前のシーンを楽しませるため」です。

通常の映画では、「こいつは助かるのか? 死ぬのか?」という結末(未来)ばかりが気になります。

しかし『パルプ・フィクション』では、物語の中盤で死んだはずのヴィンセント(ジョン・トラボルタ)が、次のエピソードでは何食わぬ顔で生きて登場します。

「死ぬ」という結末を先に見せてしまう(あるいは無効化する)ことで、観客の意識は「結果」から「過程」へとシフトします。

  • 彼らがどんな会話をしているか(『マネーボール』的快楽)
  • 彼らがどんな空気を纏っているか(『ロスト・イン・トランスレーション』的快楽)

タランティーノは時間を操ることで、ストーリーのサスペンスを犠牲にする代わりに、「瞬間瞬間の面白さ」を純粋培養することに成功したのです。

ジャンルのミックス——コメディ、ノワール、青春映画のパッチワーク

『パルプ・フィクション』を一言で表すジャンルは存在しません。

ギャング映画のようであり、コメディであり、ラブロマンスでもあります。

これは、彼が既存の映画ジャンルを「パッチワーク(継ぎ接ぎ)」のように扱っているからです。

  • 知的な脚本術(ソーキン的要素)で観客を唸らせたかと思えば、
  • 次の瞬間には下品なショック映像(ジャッカス的要素)で笑わせ、
  • ふと切ないムード(ソフィア・コッポラ的要素)で包み込む。

「シリアスな映画だからふざけてはいけない」というルールはありません。

タランティーノは、ビデオショップ店員時代に培った膨大な知識を武器に、「面白いものなら何でも混ぜていい」という闇鍋的なスタイルを確立しました。この予測不能なトーンの変化こそが、本作を唯一無二のエンターテインメントにしています。

『パルプ・フィクション』が破壊し、再構築した映画のルール

タランティーノ以前と以後で、映画のルールは明確に変わりました。

かつて脚本の教科書には「無駄なシーンは削れ」「時系列はわかりやすく」と書かれていました。

しかし、タランティーノは証明してしまいました。

「キャラクターが魅力的で、セリフが最高なら、寄り道こそが映画の本体になり得る」

彼が破壊したのは「効率性」です。そして再構築したのは「語り(ナラティブ)の自由」です。

映画はもっと自由でいい。くだらない雑談をしてもいいし、時間を巻き戻してもいいし、常識を破壊してもいい。

彼が21世紀の映画たち(『ジャッカス』から『マネーボール』まで)に賛辞を送るのは、それらの作品の中に、かつて自分が切り拓いた「自由な映画の魂」が息づいているのを感じるからに他なりません。

まとめ|映画はもっと「自由」でいい

今回、タランティーノが愛する21世紀の3作品を通して『パルプ・フィクション』を解剖してきました。

そこに見えてきたのは、「映画とはこうあるべき」というルールブックを破り捨てた、圧倒的な自由です。

野球の会議室で繰り広げられるアクション(マネーボール)、東京のホテルで流れる退屈で愛おしい時間(ロスト・イン・トランスレーション)、そして映画の品位を嘲笑うような破壊衝動(ジャッカス)。

これら全く異なる要素を、タランティーノは「面白いから」というたった一つの理由でミックスし、時系列すらもバラバラにして提示しました。結果、私たちは「物語」から解放され、純粋に「その瞬間」を楽しむ快楽を知ったのです。

今回の3作品から紐解く、既成概念を壊す楽しみ方

もしあなたが次に映画を観る時は、ぜひ「タランティーノ的な視点」でスクリーンを眺めてみてください。

  • 「本筋」を無視してみる
    ストーリーを追うのをやめて、キャラクターの無駄話や、背景に流れる空気に集中してみましょう。そこには『ロスト・イン・トランスレーション』のような豊かさが隠れています。
  • 「耳」で映画を観てみる
    映像だけでなく、セリフのリズムや沈黙の使い分けに注目してみてください。『マネーボール』のように、言葉が音楽として聞こえてくるはずです。
  • 「バカバカしさ」を愛でる
    高尚なテーマなんてなくても、生理的に「ウワッ!」となったり、笑えたりすれば、それは立派な映画体験です。『ジャッカス』のように、頭を空っぽにして衝撃に身を委ねましょう。

Check!|映画の”常識”が壊れる瞬間を目撃せよ

「ハンバーガーの話をする殺し屋」や「時系列がシャッフルされた物語」が、なぜ世界中で熱狂されたのか?

解説を読んだ今こそ、その答え合わせをする絶好のチャンスです。

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次回予告
『パルプ・フィクション』で時代の寵児となり、ポップカルチャーの頂点に立ったタランティーノ。
誰もが「次も派手でクールなバイオレンス」を期待しました。
しかし、彼が3年後に発表したのは、驚くほど静かで、渋く、哀愁に満ちた「大人の映画」でした。

【連載 第4回】
『JACKIE BROWN』― 大人のためのタランティーノ

次回は、タランティーノ作品の中で最も過小評価され、しかし最も愛するファンが多い名作『ジャッキー・ブラウン』を深掘りします。
彼が選んだ21世紀のリストから「成熟」と「老い」を描いた傑作たちを召喚し、タランティーノが到達した「わびさび」の境地に迫ります。

お楽しみに。

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